作者:山田ノエル
※この記事は『寝て食って抱いてもらえたらそれが幸せ』のネタバレを含む感想記事です。未読の方はご注意ください。
あらすじ
ニールは何にも持たない孤児だった。
ろくな寝具も食べ物もない孤児院で育ったニールには、毎日たくさん食べてぐっすり眠りたいという夢があった。
成長したニールは食欲と睡眠欲だけでなく、自分には性欲もあることに気が付いた。ニールはその三大欲求を満たそうとする。
ハッピーエンドになります。
寝て食って抱いてもらえたらそれが幸せより
作品情報
| 種別 | 連載小説 | 状態 | 完結 |
| 文字数 | 105,517文字 | ページ数 | 27ページ |
| シリーズ | なし | 掲載先 | ムーンライトノベルズ |
| R指定 | R18 |
商業化情報
なし
おすすめ度
- 両視点のお話が読みたい方におすすめ
- しんみりする話が好きな方におすすめ
感想(ネタバレ注意)
タイトルとあらすじを見た時はもっと軽い話なのかと思っていたけれど、実際に読んでみると想像以上に面白かった。まず印象的だったのが童話のような語り口。主人公のニールはかなり過酷な環境で育っているのだが、そのことを本人があまり深刻に捉えていないため、読んでいるこちらも必要以上に暗い気持ちにならずに読み進めることができた。
ただ、だからといってニールが何も考えていない人物というわけではない。例えば孤児院にやってくる慈善家の心理を理解してそれに合わせた行動をしている描写もあり、ちゃんと物事を見て考えていることが分かる。
不幸を不幸として認識していないだけで、決して頭が悪いわけではない。また、この不幸というのは私の一価値観でしかない。
この絶妙なバランスがニールというキャラクターの魅力だったと思う。
読んでいて何度も「それは辛いだろう」と思う場面があるのだが、ニール自身はそれを当たり前のこととして受け止めている。だからこそ逆に胸が痛くなる場面も多かった。
また、この作品はニール視点だけでなくルーカス視点でも描かれる。同じ出来事を別の角度から見ることができるので、二度楽しめるような面白さがあった。
特に途中のすれ違いは印象的だった。
普通なら「ちゃんと主語を言え」「ちゃんと説明しろ」と思ってしまうような勘違いなのに、ニールの性格を考えると違和感がない。むしろニールならそう言うだろうなと思えた。だから作者の都合で発生したすれ違いではなく、キャラクターの性格から自然に生まれたすれ違いだったので読んでいて楽しかった。
しかも勘違いによって被害を受ける人物が自業自得と言える人物として描かれているので、後味の悪さもほとんどなかった。
途中はかなりやきもきしたものの、どちらかというとすれ違いコントを見ているような感覚に近かった。
そして何より良かったのはニールとルーカスの関係性。どちらのキャラクターも好きだったが、一番好きだったのは二人の関係そのものだった。
ニールがルーカスに居場所を見つけるだけの話ではなく、ルーカスもまたニールに居場所を見つけている。
お互いがお互いにとって必要な存在になっていく過程が丁寧に描かれていて、最後は本当に幸せになれて良かったと思えた。
ただ、読後に一番印象に残ったのはラスト近くの孤児院のシーンだった。
あの場面を読んで少し泣きそうになった。親の愛情が確かに存在していたことが分かる場面だったから。
けれど、そのことをニール自身は知らない。赤ん坊だったのだから覚えているはずもない。
そしてその事実を知る人もおそらくもういない。
親に愛されていたことも、その時どんな思いがあったのかも、誰にも語られることのないまま時間だけが過ぎていった。ニールはそのことを知らないまま成長し、そして幸せになる。
読者だけが知ることのできる物語だからこそ、余計に胸に残ったのだと思う。
全体としては優しい雰囲気で読みやすく、ハッピーエンドもしっかり楽しめる作品だった。
途中のすれ違いにやきもきしながらも笑えたり、ニールの独特な価値観に考えさせられたりと、最後まで飽きずに読むことができた。
幸せな結末なのに少し切なくて、でも温かい。そんな不思議な読後感の残る作品だった。